2015年10月11日日曜日

カランダーシのロシア旅④「モスクワ郊外・ダーチャできのこがり」

屋根裏にツバメの巣が
 きのこの絵本「わいわいきのこのおいわいかい きのこ解説つき」を作ることもあり、ロシアに行くなら、きのこ狩りができたら、と何のアテもないのにロシア語の先生に話しをしたら、ロシアのMさんに伝えてくださり、「ダーチャ(田舎の家)へどうぞ」というお返事をいただいて…ということがあり、そして、とうとう、Mさん、ご主人、2人のお子さんと一緒にモスクワ郊外へ行く日がやってきた。

ご一家のダーチャはとってもモダンでスタイリッシュでかっこよくて、それがご主人の設計だと聞いてそれまたかっこいいなと感心したのだけど、10年かけてまだ完成ではない、っていうのもかっこいいな、と。実際、ロシアの男の人たちは長い年月かけてダーチャを自分で作ったりするようなのだ。ご主人もコツコツ、イチから自分で作り上げてきて、今は大工さんが一人住み込み!で完成まであと少しの工事を請け負っている。壮大な人生の一大事業、大変だけどその充実感はうらやましいと思う。去年はまだお客さんをよんだりできなかったそうで、私はよい時期にお邪魔させていただいたようだ。


ニワトリの家
朝早く、Mさんとお子さんたちと近所へ散歩。空気は澄み、空はどこまでも青かった。ありがたいことにとてもいいお天気だったのだ。ダーチャの集落のわきの道を歩く。鶏も道を歩く。道すがら鶏の小屋が建っていて、扉が開いていて放し飼いなのだ。驚いたのは、草の植生。オオバコや赤つめ草、なんだか日本の原っぱとそんなに違わない。でも、ここで私は生まれて初めてイラクサというものに出合う。「白鳥の王子」でその名を知ってから随分たつが、後でその棘の痛みを実感することで、やっと大昔に読んだ物語の真実が理解できたわけだ。ホントに痛かった。

静かな池
きのこ狩りはご主人が隊長さんだ。森をよく知っていて、きのこがとれそうな場所まで車で出かける。いや、その前にしっかりと装備を固める。長袖、長ズボン、長靴、帽子、虫除けスプレー。きのこを入れるためのバケツ。さあ、出発。麦を刈り取った跡の平原の脇の明るい白樺の林。ここでもいくつかのきのこを見つけたけれど、食べられないものも多く、代わりに?捨てられていたゴミをMさんご夫妻は丁寧に拾っていた。Mさんご夫妻は環境への意識が高いのだ。

次の場所はやはり白樺が目立つけれど、うっそうと込み合った本格的な森。自然の深みにに足を踏み入れていく感にちょっと身震い。でも、隊長さんがいるから大丈夫。彼にとっては勝手知ったる森なのだ。先頭を迷わず歩いて行く。そして、ちゃんときのこを見つけてくれるのだ!茶色い帽子をかぶったきのこ。赤っぽい帽子のきのこ。その2種類のきのこがその日のメイン2種類のきのこ。ヤマイグチとキンチャヤマイグチだ。隊長が先に見つけると、「この範囲にあるから見つけてごらん」ときのこ狩りレッスンをしてくれる。なるほど、子どもたちはこうやってきのこ狩りの勘を養っていくのか…きのこ英才教育だ。いいなあ。
★ヤマイグチ
★ベニテングタケ

森深く
だんだん、森に慣れてくるというのか、きのこに意識が集中してくる。もう頭にはきのこのことしかない。ひたすらきのこを探す。きのこ、きのこ、きのこ。そして、こうやって歩いていると、ふと「きのこと目が合う」ようになってくる。それは不思議な感覚だ。なーんにもない、と見えるフレームの中で呼ばれるようにきのこにフォーカスが合う瞬間!駆け寄る、確認する、隊長に知らせる。褒められる。なんて楽しいんだろう!ビギナーズラッキーなのか、新参者の私もたくさんのきのこを見つけることができた。
★キンチャヤマイグチ


大きい!
私たちはまるで、マリー・ホールエッツの絵本のように列を組んで森の中を進んだ。子どもたちは枝を見つけたり、遊びながら森を進む。森の中へ中へ。もう、北も南も分からない。さらにいえば、過去も未来もない、大げさに言えば世界の全てが森で、今その時だけを生きている感覚というのかなぁ。少なくとも私は幸せだったなぁ。と今でも思う。森と相性がよかったのかな。

たくさんのきのこがとれて、それで私たちはいい気分だったのだけど、さらに嬉しい瞬間がやってきた。ヤマドリタケ(ポルチーニ)を見つけたのだ。ぷっくりとしたきのこの王様。隊長は生でスライスして食べさせてくれた。その馥郁たる香り!

★ヤマドリタケ
ベニテングタケは美しかったし、他にも、何種類かのきのこに出合った。でも、食べられないきのこ、食べるのに手間がかかるきのこに対しては、さして関心は持たない。そう、忘れてはいけない。これはダーチャにおける大切な食料調達の仕事なのである。きれい、かわいい、ではお腹はいっぱいにはならない。

すでに、帰り道など分からない。さんびきのくまの女の子気分だ。でも、隊長さんはすごい。ちゃんと車まで迷わずに歩いていくんだな、これが。天晴れ。

ダーチャでは、きのこを並べて記念撮影。それから、シャシリク!庭でMさんがマリネしておいてくださった鶏肉を串で刺して、隊長さんが蒔で起した火で焼く。私はキッチンでMさんの助手。きのこを切ったものをバターでいためた。ビーツとじゃがいもとピクルスのサラダなどなどのごちそうがテーブルに並ぶ。Mさんが素敵な新しいクロスをかけてくれた。どれも素材の味がしっかりとしていてとてもおいしかった。そして、きのこはエキスが溶け合い、しみじみ滋味深かった。
うまし!

たくさんとれたきのこはカットして袋に小分けにする。冷凍するのだ。庭のプルーンもたくさん収穫して洗って種を取る。これも袋に小分け。ジャムにしたりコンポートにしたりするそうだ。そうそう、同じ庭の別棟に住む隊長のお父様の作ったプルーンのコンポート
プルーン
もおいしかったな。たくさんとれたら、たくさん仕事もある。ダーチャは優雅に休むところではない。というのは本で読んで知っていたけど本当だ。畑を作り、果樹を育て、森ではベリーやきのこをとり、その世話や処理や料理に追われる場所。そして、それは家族の大切な食料になる。

ダーチャ集落の夕暮れ
全ての後片付けをして、ダーチャを後にするのはもうすっかり夜も更けた頃。お父様と日本の水害のことを心配してくれていた大工さんともご挨拶をして車に乗り込む。
空には星が見たこともないような大きさで輝いていた。私は車窓から見える深い森に心の中で「ありがとう。さようなら」と挨拶。まあ、私の魂の一部はあの森に置いてきた気もする。

ホテルの部屋に戻ると、ハート型の風船が天井にぶつかっていて、テーブルにはケーキが置いてあり、「HAPPY BIRTHDAY」とチョコでお皿に書いてあった。そう。その日は私の誕生日だったので、ホテルのサービスだ。遠い旅先で迎えた誕生日。贈り物は森からたくさんいただいた。忘れられない誕生日。Mさんご一家には大変感謝している。特に日露の大きなプロジェクトに関わったり、大きなお仕事をバリバリこなすMさんに、とても個人的なモスクワ珍道中におつきあいいただけたことは本当にありがたかった。また、その中で、色々子育てのことや、あれやこれやをお話しさせてもらったことも心に残っている。私は本当はとても心細かったんだと思う。でも、乗り切れたのは、Mさんに助けていただいたからだ。






このダーチャでのきのこがりで、漠然としたイメージにすぎなかったロシアの森ときのこ、きのことロシアの人々の様子について実際にこの目で見て確かめることができた。新刊の絵本「わいわいきのこのおいわいかい  きのこ解説つき」の中に出てくる「うっそうとしたポプラ」のざわめきやトウヒの松かさを目の当たりにし、そして登場人物?の★ヤマドリタケ、★キンチャヤマイグチ、★ヤマイグチ、にも出合えただけでなく触れて収穫して食した。★ベニテングタケの赤にはっとさせられ、街の市場では★アンズタケも見た。食品店では干したヤマドリタケやたくさんの瓶詰めや缶詰。食生活の中のきのこの存在の大きさもよくわかった。


昔からロシアの人々の身近にあったきのこ。それには森と人とを繋ぐダーチャという存在も大きい。森の国ロシア。きのこの国ロシア。絵本の背景を実感することができたのは本当に大きな収穫だ。また、あらためて、マーヴリナのきのこの描き方は素晴らしいなと気づかされている。そして、保坂先生の解説にある「共生」という言葉を考えてみたりしている。

きのこを身近に!
新しくできる絵本で、きのこをもっと身近に感じてもらったり、そもそもきのこにはたくさんの種類があることが伝わったり、解説を読んで森との関連性を知ってもらったり、ひいてはロシアの人ときのこの深い関係性を知ってもらったり、そんなふうになれば嬉しいなと思う。またこのきのこ狩りで得たものも何か役立てることができたら、と思う。

そうなれば、ロシアの森のきのこたちもきっと嬉しいはず…と思おう。
(カランダーシのロシア旅ブログはこれで終わりです。ふう)

森からの贈り物


★は絵本に出てくるきのこです。

「わいわいきのこのおいわいかい きのこ解説つき」


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