2012年4月19日木曜日

ロシア絵本とユーゲントシュテイル


エルサ・ベスコフ作
「りーサの庭のはなまつり」
文化出版局
ロシア絵本の黄金時代を前に、19世紀末の西欧芸術の「うねり」をうけて、1898年セルゲイ・ディアギレフが雑誌『芸術世界』を創刊しましたが、これに参加した画家たちが、「芸術世界派」として活躍します。このことはロシア絵本の歴史にとって、大変重要です。

この「うねり」のおおもとは、ユーゲントシュテイル(=青春様式)というドイツで生まれた芸術様式で、『ユーゲント』という当時爆発的大成功をおさめたイラスト多用の大衆雑誌(週間誌)に由来します。ユーゲント・シュテイル、この世紀末の芸術様式は「アール・ヌーボー」の流れをくむもので、ほぼ同じ意味として用いられています。

絵本の世界では、その時代、イギリスではウォルター・クレイン、アーサー・ラッカム…、アメリカでハワード・パイル、ドイツではゲルトルート・カスパーリ、フランスではブーテ・ド・モンヴェル、チェコではアルトゥシ・シャイネルなどなど美しい名作のオンパレード!余談になりますが、私の大好きなスウェーデンのエルサ・ベスコフもこの時期の作家。最近知って大好きになったスイスのエルンスト・クライドルフも大体同じ時代ですし、個人的にはこの時代の絵本は大変興味深いです。(参考文献:『絵本の黄金時代』国立国会図書館国際子ども図書館刊)国際子ども図書館のサイトでは、この時代の絵本を取り上げて紹介しています。ため息ものです。ユーゲントシュテイルと絵本作家たち

そして、ロシアではその「芸術世界派」がたくさんのすばらしい絵本を創作しますが、「傑出していたのはイワン・ビリービン」と『芸術新潮2004年7月号』にもあるように、黄金期以前の絵本界の頂点を極めた作家の登場です。
         
  
                                   
                  
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ビリービン切手
額入り5枚組セット1680円(定価)
  ロシア絵本「カランダーシ」





2012年4月17日火曜日

ロシア絵本の黄金時代以前


 1920年代~30年がロシア絵本の黄金時代だとして、それ以前のロシアの文化的状況とは一体どんなものだったのでしょうか。

『芸術新潮』04年7月号には「ヨーロッパから見れば辺境の後進国。そんな状況に甘んじてきたロシアにとって、西欧に追いつき追い越すことは悲願でした。18世紀初めにペテルブルクの建設にとりくみ、西欧風の都市をつくりあげたのもそのため、努力のかいあって19世紀末にはかなりの西欧化をはたします。このころから20世紀はじめにかけてヨーロッパ諸国では世紀末芸術が咲きほこりますが、ロシアもその動向に共振し、ペテスブルグでは1898年、セルゲイ・ディアギレフとその一派が象徴主義の雑誌『芸術世界』を創刊。ここに参加した画家たちがすばらしい絵本をうみだす」とあります。

『絵本の黄金時代』(国立国会図書館国際子ども図書館刊)によると19世紀、世界的にはそれまで労働力としてしか見られていなかった子どもへの関心が高まり、後半にはようやく読み物や絵本が流通しはじめたとあり、ロシアでも活発に教育について議論が行われ、この時代もっとも大きな影響力をもっていたといわれるエレン・ケイの『子どもの世紀』も1905年にはロシア語に翻訳されたということがわかります。

当時のロシア児童文学の分野では主流は童話、歌、詩であったようで、ピュートル・エルショーフの『せむしの仔馬』やアレクサンドル・プーシキンの物語などが生まれています。また、その後の絵本誕生への大きな技術的な背景として写真製版の登場もあげられるでしょう。

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ビリービン切手「うるわしのワシリーサ」
木製額入り全5柄1680円(定価)

   ロシアの絵本「カランダーシ」








2012年4月16日月曜日

ロシア絵本の黄金時代

たとえば。
先述の『芸術新潮』04年7月号の特集「ロシア絵本のすばらしき世界」を何の予備知識もなく読み始めたとする。「ロシアの絵本だから、『大きなかぶ』とか『チェブラーシカ』は載ってるのかしら」とか思いながら。それは至極当然の思いだと思う。

でも、中を見たらチェブラーシカのチの字も出てはこない。随分と時代がかった絵本しか出てこないので面くらう。読んでみると1920年から30年の間の絵本が主役。結果、「ロシア絵本といったらこの年代のもの」というひとつの考え方の存在を知ることとなるわけだ。

どんなにこの時代の絵本がスゴイ=重要かは『幻のロシア絵本1920-30年代』(企画・監修:芦屋市立美術博物館、東京都庭園美術館、淡交社刊)や「ソビエトの絵本」(ジェームス・フレーザー共編、リブロポート刊)※画像※など、この時代の絵本だけをあつかった書籍があることからもわかる。黄金時代ともいわれるこの時代の絵本をまずはじっくり見ていこうと思う。

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ヴァツネホーフ絵「手をたたきましょう」
3990円(定価)
ロシア絵本「カランダーシ」

2012年4月13日金曜日

『芸術新潮』04年7月号

さて。
規模は小さいながらもロシア絵本の絵本のネットショップまで立ち上げてしまった今日このごろ。動機は「好きだ」というだけで十分だと思うのですが、せっかくの機会なので、少しずつロシア絵本の世界について調べてみることにしました。

それで、この『芸術新潮』2004年7月号。東京子ども図書館資料室で見つけました。特集は「ロシア絵本のすばらしき世界」。わかりやすい内容のような(気がする)ので、この雑誌を入口に、今まで知りえたことも整理しつつ、その「すばらしき世界」が何なのか探っていくことにします。

表紙の絵本は『四つの色について』。詩=ニーナ・サコンスカヤ、絵=リジヤ・ポポーワ、1930年刊(第3版)、沼辺信一氏蔵。この沼辺氏がこの特集の解説者です。
沼辺信一(1952年~)さん:雑誌には収集家・研究者、20世紀芸術史とあります。ご本人のブログに詳しいプロフィールがありました。(http://numabe.exblog.jp/15015271/

それにしてもこの表紙。風船を手放してバンザイ状態の少女たち。失われたものはもう二度と戻らない…それが、すなわちロシア絵本のある時代の輝きを示唆しているとすればちょっと切なくなってしまう扉絵ですね。

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チュコフスキー詩「めちゃくちゃの大さわぎ」
4800円(定価)

ロシアの絵本「カランダーシ」