2012年8月15日水曜日

映画と絵本。コナシェーヴィチ

「バスケットの中のねこ」1929
ウラジミール・コナシェーヴィチ(1888-1963)。
「芸術新潮2004年7月号」では、黄金時代の「もうひとりの巨匠」と紹介されています。そう、ロシア絵本黄金期を牽引したレーベジェフとまさに時代のダブルセンターをつとめた絵本作家です。新しい表現力で目を見張らせたレーベジェフとは異なり、コナシェーヴィチの絵はどこか懐かしさを感じさせるディテールにこだわった描き方をしています。そう、彼の出目はビリービンと同じ「芸術世界派」なんですね。

「子どもはリアリストである。それも筋金入りの。子どもはモノを正確の、すべての特徴をもらさず描きこみ、それと同時に単純にわかりやすく描くように要求する」(「幻の絵本1920-1930年代」淡交社より)と彼自身が述べていますが、なるほど正確さと具体性に力を注いだ表現が特徴です。いいかげんなデフォルメなどもちろん、「子どもだまし」を最も嫌ったのだと思います。で、画風は異なりますが、コナシェーヴィチは、もうひとりのウラジミール、レーベジェフを物事の本質をとらえ表現する作家として認めて評価していました。


「電話」1936
レーベジェフがマルシャークとコンビを組んで名作を次々と生み出したように、コナシェーヴィチにはコルネイ・チュコフスキー(1882-1969)というよき相棒がいました。でも、コナシェーヴィチの代名詞ともいえる絵本「火事」はマルシャークとのコンビで生まれたんですね。この絵本は留守番をしていた女の子が火事を出してしまうのですが、消防隊がきて火を消し、飼い猫も助けてくれるというハラハラドキドキ、緊張感が半端ない内容。その緊迫感あふれる展開をコナーシェヴィチは「映画技法」を用いて表現しました。


「火事」1932
「映画そのものの様式、そのダイナミズム、局面の急速な交代、移行の大胆さが、このころ絵本に入ってきた」(「ソビエトの絵本1920-1930」リブロより)とあるように、つまりは映画のワンカットを切り取ったようなページ絵がどんどん展開していくということなんですね。コナシェーヴィチの正確な表現が、「あたかも映画のような」絵本作りを成功させていると思います。最初はストーリーを追って、2度目はゆっくり細部を見る。そんな映画みたいな絵本の楽しみ方ができますね。


1本の映画、1冊の絵本。どちらもいかにして物事やお話を「実際あったもののように」表現し伝える媒体という見方をするならば、共通点があるという考え方ができますね。同じ土俵で考えたことはなかったのですが、映画の表現を絵本に積極的に取り入れるという視点が大変興味深いです。しかも、映画は絵本よりもずっと後で出てきたものです。そのように新しいものに刺激を受け、絵本制作にいかそうとチャレンジし、実績を残し、絵本の革命の一翼を担い活躍したコナシェーヴィチ。さすがです!


そして私は多くの作品を知っているわけではないのですが、その作風にとても魅力を感じています。ペンで縁取るラインからは温もりを、また色彩の選び方に優しさや品位を感じます。プラス、何んといってもちゃめっ気のようなものも感じられるのがいいですね。きちんと描かれていながら、気負いを感じさず親しみやく仕上げられている。子どもに渡す絵本にとって、それはとても大事なことです。読者へ優しい声で直接語りかけるような、そんな絵本だと思います。味わい深いです。できるならどの絵本も見てみたいですね。



しかし、しかし、やがては弾圧の黒雲がやってきて、コナシェーヴィチを追い込みます。生命は守られましたが、多くの仲間が犠牲になり、思ったように絵を描けない日々を耐えなくてはなりませんでした。そして、残念ながらそれは映画ではなく現実でした。先が見えないストーリー。そして、暗闇で覆い尽くされた時代のページをめくるのには大変多くの時間が必要だったのです。


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「プーシキン民話集/
ブィリーナ(英雄叙事詩)」5040円
ロシア絵本「カランダーシ」


「入り江のほとり」3150円