2012年6月13日水曜日

宮崎駿アニメとビリービンのつながり

6月2日から三鷹の森ジブリ美術館http://www.ghiblimuseum.jp/news/007627.htmlで「挿絵が僕らにくれたもの展 ―通俗文化の源流―」という特別展示が始まり、行ってきました。この中でビリービンの作品も紹介されるというのですからとても楽しみだったのです。今回はその報告です。

小さな子どもたちを連れて行ったのは結構昔のこと。いい機会なので久しぶりに家族4人で出かけました。到着して目をひいたのは、いい感じに緑に覆われてる建物の外観。壁面にはツルの額紫陽花や、ムベの実がなっていたり、植え込みには八重のドクダミが…。植物観察に再度来たいくらいの植物の充実ぶりでした。

さて、今回は、常設展示「映画の生まれる場所」をじっくり見ることができました。小さい子どもが一緒だとなかなか時間をかけて向き合うことができない場所でしたので、自分のペースでゆっくりと。アニメ制作を目指す子どもが出てほしいという意図もあっての展示だそうですが、すでに充分大人の自分にとっても刺激があり、人生で忘れてきた「何か」を触発されてしまいました。

そして、特別展示です。ビリービンのコーナー。昔話集などから集められた挿絵1枚1枚に、宮崎駿さんのコメントがついていました。アニメーションとビリービン、どうやって結びつくのか想像できなかったのですが、宮崎氏のコメントにその答えがありました。

たとえば、ビリービンの描く「海の波」。波頭や水面のとらえ方に触発されて「波は動かせる」と思ったとありました。当たり前ですが、素人が見る見方とは違うわけですね。コメント全てが「アニメーションにいかせるぞ!」という発見の紹介なのです。当然といえば当然か。雨雲、夜の闇、水面、夕暮れ…どうやったらアニメーションとして皆に伝えることができるのか、宮崎氏の苦心と、またアニメーションの「奥行き」を素人なりに知ることができたのは私にとって発見であり収穫でした。

ビリービン画「バーバヤガー」
その中で、興味深かったのが、「植物の描き方」についてでした。宮崎氏はアニメにおいても「種類が特定できるよう描きたい」という思いがあるということで、たとえば、ロシアの魔女的存在のバーバヤガーが描かれている森の絵。ここで枯れ枝が「トウヒ」とわかる描き方に「理想」であるとのコメントがついていました。

ビリービンは、ユーゲント・シュテイル花盛りのドイツで西欧文化を吸収し、ロシアに戻って西欧の技法を用いながらもロシア固有の民族性や特色を重んじた作品を残しました。民話を描き、ロシアの根幹的心の故郷の風景を描きました。その心の故郷の風景に、ロシアの「森」は欠くことができない絶対的風景だったわけですね。

そう、そして、その森の植生はもしかすると日本人が考えるよりも重要なのではと思います。以前、ロシアの人にロシアの国の花が「ひまわり」だと伝えたら、首をかしげられました。彼らにとってロシア=白樺だというのです。花よりも樹木が祖国をイメージできるアイコンなわけです。樹木の描き分けは、ロシアの魂を表現したいビリービンにとって必然だったのではと思います。ロシアの森には「トウヒ」や「白樺」がないと始まらないのです。

ビリービン画:ダイナミックな構図です!
宮崎氏に影響を与えたビリービン。宮崎氏がビリービンに魅かれた理由は、ビリービンが舞台芸術家としても活躍した作家であったこともおおいに関係しているのではと思います。ビリービンの絵はなるほど、そのまま演劇のワンシーンのようなものが多いです。登場人物はわかりやすい(伝わりやすい)表情で、まるで役者が今目の前でそのシーンを演じているようにも見えます。構図もとても効果的に見せる描き方だと思うのです。そして「舞台装置」としての背景や衣装、細かい小物にいたるまで、手を抜かない「演出」がほどこされています。

ビリービン画:オオカミに乗っています。
この二人の表現者の共通点は、まさに物語がいのちを得て「動く」ことに心砕いて作品を生み出しているところにある!そんなふうに思いました。ビリービンが存命で、アニメーションを作ったら…それはなかなか楽しい想像です。


で、パラパラと手持ちのビリービン絵本を見ていたのですが、この1枚。あの「もののけ姫」のワンシーンのようですね!!


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ビリービン
「プーシキン民話集
ブイリーナ(英雄叙事詩」5040円

ビリービン
「入り江のほとり」
3150円
ご注文は
ロシア絵本「カランダーシ」
すばらしいビリービンの絵の世界を
堪能できます。
画集のようにお楽しみください。





2012年6月1日金曜日

すごいぞ!レーベジェフ!

いよいよロシア絵本黄金時代の幕開けです。革命に共鳴した芸術家たちの「ロシア・アヴァンギャルド」のうねり。多岐にわたるその芸術運動の中でも、多くの芸術家が「絵本」創作に参加しました。今までのような一部富裕層のためにではなく、識字率の低い民衆や子どもたちへ、新しい時代の到来を伝えることを使命として、おびただしい数の絵本が出版されました。



ウラジミール・レーベジェフはそのうねりの中心人物であり、黄金期を牽引する旗手でした。左は我が家にある邦訳されている絵本作品です。上から『サーカス』『しゅりょう』『かんながかんなをつくったはなし』『こねこのおひげちゃん』(以上岩波書店刊)。洗練された形、明るい色使い、ユーモア、ナンセンス、躍動感…機能的でありながら温かい印象を受けます。デザイン力にも目を見張ります。見る側に立った飽きさせないページ構成力 などは、「ロスタの窓」創作の賜物なのでしょうか。



個人的にはビリービンのような装飾的「芸術世界派」の作品も好きですが、レーベジェフ作品も好きです。その理由は、簡単にいうと「垢ぬけてカッコイイ」と感じるからですね。



解剖学やするどい観察眼にうらうちされたという「本物感」=リアリティがカッコイイ、また、子どもに向けての姿勢、つまり伝えるために、事物の描き方はシンプルさを追及しつつも、決して媚びていないことがカッコイイ。



そうです。絵柄の意図が伝わることを旨としながらも、あざとさやたくらみで人目をひこうとしていないから大人が対峙して受け取るものがきちんとある。そして何よりも絵から「前向きなベクトル」を感じることは大きな魅力ですね。ほんとカッコイイ絵本!(仕方ないのですが、ロシア版原書のほうがもっとカッコイイです)



これらの作品はすべて詩人サムイル・マルシャークとの合作です。当時のサンクトペテルブルク市、ネフスキー大通りにあったシンガー・ミシンビル6fの国立出版所児童所編集部で、レーベジェフとマルシャークはそれぞれ美術と文学の顧問として、自らの創作活動はもちろん、多くの才能ある若手を育てます。レーベジェフ派が誕生し、そして後世に残る素晴らしい絵本の数々が創作されたのです。



「こどものためのグラフィックアートが、これほど真剣な芸術の試みと一致したことはかつてなかった」『ソビエトの絵本』(リブロ刊)
しかし。味方だったはずの時代の流れは、この素晴らしい絵本の隆盛を押しつぶす方向に向かうわけですね。うーん。

参考文献:『幻のロシア絵本1920-30年代』(淡交社)『ソビエトの絵本』(リブロ)『カスチョール29号』(カスチョールの会刊)

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ビリービン切手額(5柄入り)1680円
ロシア絵本「カランダーシ」